【シナリオ】壁の中の鼠【新クトゥルフ神話TRPG】

TRPG

探索者は、友人である男性から怪奇現象の調査依頼を受け、男性の家を調査する。その結果、悍ましい過去と対峙することになる。

はじめに

このシナリオは、”クトゥルフ神話TRPG第7版”に対応したシナリオで、探索者1~3人向けにデザインされている。

プレイ時間は1~3時間程度である。
舞台は、現代日本の地方都市『久東市』である。
季節はいつでもよい。
探索者の職業・年齢に制限はないが、全員がNPCである奥寺 忍の友人である必要がある。
探索者の居住地は限定しない。
探索者創造に当たっての必須技能はなし。
推奨技能はない。

必須技能は、探索者のうち誰か一人は持っていないとクリアが難しい技能。
推奨技能は、持っているとシナリオの情報を入手しやすい技能。

本シナリオに書いてある内容は基本的にプレイヤー向けに読み上げ可能な文章である。

[]キーパーおよびプレイヤー向けの情報である。
「」はキャラクターの会話文である。
『』は行動の分岐に関する情報である。
〈〉は技能に成功した場合の情報である。
《》は行動した場合の情報である。

キーパー向け情報

シナリオの舞台である奥寺邸は、立派な日本家屋である。奥寺家が代々受け継いできた邸宅である。

探索者達は、地下に眠る奥寺家の悍ましい歴史を暴かなければならない。

また、シナリオのエンディング分岐は過去の出来事によって弱った精神に狙いを定めた邪悪な奥寺家の先祖の魂から奥寺 忍を守れるかどうかに懸かっている。

奥寺 忍が邪悪な先祖に打ち勝つには、辛い過去を乗り越えなければならないがそのためには過去と対峙し、彼を支えてくれる存在と共に行動する必要がある。

過去について奥寺 忍が強く言及することはないため、探索者が舞台から奥寺 忍の過去と心の傷を知り、それを支えるための適切な行動をとる必要がある。

奥寺 忍が過去に打ち勝つための条件は、支えてくれる人の存在ともう一度家族を作り、守り続けようとする意思である。

プレイヤー向け情報

探索者達は友人である”奥寺 忍”から最近、家で猫が奇妙な行動をとっているから調査をしてほしいと依頼され、彼の家を調査することになる。

主なNPC

奥寺 忍

男性。久東市で事務員をしている。探索者の友人である。

久東市立大学を優秀な成績で卒業後、久東市で就職、大学時代から交際していた女性と結婚して一人の男の子を授かる。

それから順風満帆な生活を送っていたが、突然息子を飲酒運転の車に撥ねられてしまい亡くしてしまう。それが原因で妻とは離婚し、現在では一人暮らしをしている。

追い討ちをかけるように両親も他界し、現実に失望した彼は猫を一匹飼い、無気力に日々を過ごすようになった。また、当初は広かった交友関係もかなり狭くなり積極的に人とは関わらないようになっている。

そんな彼は再起を図ろうとしているが、自宅に眠る先祖の悪霊の影響を受けてなかなか行動できずにいる。それを察知した猫が主人に危機を知らせようと日夜行動に出ているが、奥寺はそれを奇怪な行動とみており、探索者達に自宅の調査を依頼することになる。

探索者は、奥寺 忍とは5年以上会っておらず、久しぶりに連絡を受けている。

奥寺 忍(32歳)
STR 60 CON 65 SIZ 65 DEX 55 INT 65
APP 55 POW 60 EDU 70 正気度 35 耐久力 13
DB:+1D4 ビルド:1 移動:7 MP:12
〈近接戦闘(格闘)〉57%(28/11) 1D3+1D4
〈回避〉27%(13/5)
装甲:なし
技能:〈応急手当〉62% 〈手さばき〉38% 〈隠密〉48% 〈聞き耳〉48% 〈目星〉57%
   〈運転(自動車)〉48% 〈夢見〉46% 〈言いくるめ〉33% 〈信用〉36% 〈説得〉38%
   〈経理〉33% 〈心理学〉38%

エネミー

奥寺家の亡霊

奥寺家に眠る奥寺家の先祖の亡霊。
代々人食いの習慣があり、奥寺家の人間は奇妙な夢を通してその習慣を体に刻み込んでいく。

精神が弱っている者ほどその効果は高く、現在奥寺 忍の精神に多大な影響を与えている。

奥寺家の亡霊
POW 90 INT 90
MP:18
〈憑依〉対象とのPOW対抗ロール
憑依された対象は、亡霊の意のままに行動することになる。
憑依を解くには、対象がPOW対抗ロールに打ち勝つか誰かがお経を唱えたり、お神酒や塩を対象に振りかける必要がある。

奥寺 忍に憑依する際は、対抗ロールは不要で自動成功となる。
ただし、条件として奥寺 忍の精神が弱っている、夢見で食人を受け入れている、地下の防空壕に足を踏み入れているという全ての条件を満たしている必要がある。

導入

今回の舞台である久東市は、岩手県南東部に広がる久東山地の中にあり、農業、工業、商業、観光業と様々な産業が盛んである。交通の便が良いとは言えない立地ではあるが、人口約25万人を擁しており、北東北の中心的な都市の一つとなっている。

探索者は、友人である奥寺 忍から自宅で猫が奇妙な行動をとっていると連絡を受け、調査を依頼されることになる。

本シナリオにおける事前知識について

探索者は、以下の情報を特定の条件下で入手することが可能である。

過去に起きた事件

探索者が奥寺 忍の友人である場合、自動的に以下の情報を入手することができる。

交通事故

この交通事故は5年前の出来事であり、奥寺 忍は息子である奥寺 瞬を失っている。
加害者は、飲酒運転を行っており、交差点で信号を見間違えて右折したところ、横断歩道を渡っていた奥寺 瞬を撥ねてしまった。
奥寺 忍は、その様子を目の前で見ており、最愛の息子を救えなかったことを悔いている。

導入

探索者達は友人である奥寺 忍から自宅を調査してほしいと依頼を受けて奥寺邸へと向かっている。

移動方法は何でも構わないが、奥寺邸は、中心市街地から少し離れた場所にあるため徒歩ではだいぶ時間がかかる。また、奥寺邸の周辺にはまばらに住宅が建っているが商店の類は少なく、1~2㎞離れた場所にしかない。

奥寺邸は、2階建ての建物であり、探索者は5年以上前に何度か訪れたことがある。

入口のインターホンを鳴らすと少し間を置いてから奥寺 忍が探索者を出迎える。
久しぶりに会った奥寺 忍は瞳の輝きが失われ、見てすぐに分かるくらい顔に影が落ちて元気をなくしている。

「やあ、久し振り。5年以上会ってなかったね。ここで立ち話も何だしどうぞ。」
と探索者達を玄関の中へと迎え入れる。

そのまま探索者は茶の間へと案内される。
茶の間の風景は、以前訪れたときと寸分違わず探索者は懐かしさを覚えるだろう。

「じゃあ、今お茶を出すからゆっくりしていて」
と奥寺 忍は奥のキッチンへと姿を消した。

探索者が茶の間で過ごしていると一匹の猫が襖の隙間から入ってくる。その猫は黒猫であり、優雅に部屋の中に入ってきたかと思うと一番大きなソファに座り、丸くなって寝息を立て始める。もし、探索者がそのソファに座っている場合は、黒猫は探索者を睨みつける。

暫くすると、奥寺 忍がお茶を持って姿を現す。
「ごめんね。ペットボトルのお茶で。」
と人数分のコップをテーブルの上に乗せてお茶を注ぎ始める。

「それじゃ、頼みの話を始めようか。」
そう言って奥寺 忍はゆっくりと話し始める。探索者は、以前の奥寺 忍はもっと覇気があり、話し方も現在より声が高く不必要な話、例えば近況などの雑談に華を咲かせるようなタイプであり、外見だけでなく性格まで大きく変わっていることに気付くだろう。

「これは一か月くらい前からの話なんだけど、実は妙なことが起き始めてね。それを調査してほしいんだ。そのおかしいことは全部で二つ。一つ目はクロ…飼い猫の様子がおかしくなることがあるんだ。妙に気が立っているというか…普段は僕に懐いているんだけど時々毛を逆立てて威嚇してくるんだ。二つ目は妙な夢だ。最近、変な夢をよく見てね。夢の舞台はこの家なんだけど見たことのない階段を下り、地下の洞窟のような場所に辿り着くんだ。その夢は毎回ちょっとずつ進んでいって、今はその洞窟の奥にある扉に手をかけるところまで見ている。あまりにも続くからおかしいと思って、今は他に頼れるような人もいないから久し振りで申し訳ないけどみんなに連絡をさせてもらったんだ。もうこの家に見られて困るようなものは殆どないし、この家の調査をお願いしたいんだ。依頼料としては、まず一人当たり10万円、それと食事や調査に必要な費用の負担をするよ。いいかな。」

探索者がそれを了承すると、奥寺 忍は安堵した様子で
「助かるよ、この家は大切な思い出が積まっているからね。可能な限りここ以外の場所には住みたくないんだ。」


一通り呟いた後に、奥寺 忍は部屋の棚から一冊のファイルを取り出して探索者に渡す。
「これは家の見取り図だよ。以前来たことがあるだろうからある程度は分かっているとは思うけど何かの役に立つと思う。必要であれば僕も立ち会って調査をするからいつでも話しかけて。じゃあよろしくね。」
ひとしきり話し終えると、奥寺 忍はソファに座って遠い目をして庭を眺めている。
⇒奥寺邸

奥寺邸

奥寺邸は、庭及び土蔵がある二階建ての一軒家である。以前、探索者が訪れた際には父母と妻、息子との五人暮らしをしていた。当時から家の様子は変わっておらず、探索者は五年以上前の奥寺 忍を思い出すだろう。
奥寺 忍は快活な人物であり、久東市立大学では学業優秀で人望も厚く、知り合いも多くいた。また、就職後は仕事も上手くいっている様子であり、夫婦仲も円満だった。しかし、現在の様子から何かが彼を変えてしまったのは間違いないだろう。

1階

玄関

玄関には、靴入れが設置されており、屋外側の床には男性一人分の革靴が揃えられて置かれている。屋内側の床には玄関マットがフローリングの艶やかな床の上に敷かれている。上に埃などはなくしっかりと掃除されていることが分かるだろう。探索者が訪れた時間帯は昼間であり、若干薄暗いが玄関からの明かりによって足元が照らされている。

《靴入れを調べる》
靴入れの中には、何足かの成人男性用の靴と小さな子供用の靴が入っている。
〈目星〉もしくは《靴をよく観察する》
成人男性用の靴はある程度使いこまれた形跡があり、現在も使われていることが分かるだろう。しかし、子供用の靴には使い古されたものと新品のものの二足が置かれている。使い古されたものは泥だらけであり、かなり擦り減っている。

《靴について奥寺 忍に聞く》
「あぁ、その靴は息子の…瞬の靴なんだ。とても私には捨てられなくてね…。」
と奥寺 忍は遠い目をしてその靴を見る。その瞳に映っているのは現在ではなく過去なのだろうと探索者は感じるだろう。

廊下

廊下は艶やかなフローリングであり、埃の類は見られない。定期的に掃除されていることが分かる。

茶の間

茶の間は、畳の上に天板がガラスでできたテーブル、人数分の座布団、大きなソファが一つ、食器などが入った棚、テレビが置かれており、壁側の窓からは庭を一望することができる。

《テーブルを調べる》
テーブルには、汚れ一つついておらず、ガラスの天板は光を反射して探索者の顔を綺麗に写し出す。かなり丁寧に掃除をされていることが分かる。現在、テーブルの上には人数分のお茶入りのコップと茶菓子が置かれている。

《棚を調べる》
棚の中には食器を中心に様々なものが置かれていた。その中でも目を引いたのは一枚の写真立てである。その写真立てに納まっていたのは、仲睦まじげな夫婦とその両親、そして中央には向日葵のような笑顔をした一人の少年が写った家族写真だった。その少年は、どことなく小さな頃の忍に似ているため、彼の息子であることが分かるだろう。その写真立ては明らかに角が擦り減っており、頻繁に持ち出されていることが分かる。

日本間

日本間は、奥寺邸の奥まった場所にあり、床には薄っすらと埃が積もっており埃臭さが鼻を突く。部屋と廊下の仕切りである障子は若干黄ばんでいることからあまり手入れがされていないことが分かる。

部屋の中には、床の間に古い掛け軸が掛けられており、天井付近の壁には神棚が取り付けられていた。それ以外に目ぼしいものはなく、空虚な空間であることが分かるだろう。

仏間

この部屋には仏壇と仏像が置かれていた。仏壇には以前訪れたときに探索者達を出迎えてくれた両親と奥寺 忍の息子である奥寺 瞬の遺影が飾られていた。仏壇は綺麗に手入れされており、探索者が部屋に入ったときから線香の香りが薄っすらと漂っていた。艶やかな漆の輝きや埃が一切積もっていない木の質感からかなり丁寧に手入れされていることが探索者達には分かるだろう。

キッチン

キッチンは、シンクとコンロが設置されており、室内には冷蔵庫、食器棚、食事用のテーブルなどが置かれている。

《シンクとコンロを調べる》
シンクとコンロには小さな油汚れや水道水による白い曇りがあるため、頻繁に使われていることが分かる。また、全体的に綺麗に掃除が行き届いている。

《冷蔵庫を調べる》
冷蔵庫は、三段構成で高さは1.8m近くはある大型のものである。内部を見るとかなり空きがあり、寂しい空間となっている。恐らく内部に入っている食料は成人男性一人が数日過ごすには十分な量だろう。

《食器棚を調べる》
食器棚は、二段構成であり、下の段は不透明な横開きの木でできた扉であり、上の段は透明なガラスでできた扉である。
中を見ると様々な食器が置かれていることが分かる。その食器の数は男性の一人暮らしとしてはかなり多く、奥に入っているものは若干の埃を被っている。

WC

WCは、大便器が一個置かれた一般的なものである。室内には芳香剤の香が漂っており、便器を見るとその陶器のような輝きを放つその様から丁寧に掃除されていることが分かる。

両親の部屋

1階の奥には両親の部屋があった。探索者が扉を開けると埃臭さが鼻を突く。室内には殆ど何も置かれておらず完全な空き部屋と化していた。恐らく遺品整理は済んでいるのだろう。
また、この部屋には大きな押入れがあった。

《押し入れを調べる》
押し入れは二段構成になっており、一番上には小さな棚のようなものが作られていた。
探索者が押し入れを調べていると、入口から黒猫が入ってくる。その猫は、押し入れの上に登ると世話しなく周囲の匂いを嗅いだり、壁を引っかいたりする。
〈目星〉
探索者が押し入れの床を軋ませながら念入りに調べていると、一番上の棚に手紙のようなものが落ちていることに気付く。

★謎の手紙らしきもの
その手紙には、以下のようなことが書かれていた。
奥寺家の先祖は食人を行っていた。それは先祖代々引き継がれる精神のようなもので、どうやら人肉に強い抵抗を抱いている者をも簡単に食人家へと変貌させる恐ろしいものである。
これは、我が先祖から代々受け継がれてきた食人から逃れるための方法の研究記録である。非常に重要な書類であるが、食人の文化を知ってしまった者は先祖の悪霊によって才能を開花させられることになるため、子孫への伝承は当主が次期当主に死ぬ間際に伝えること。
現在分かっているのは、次の内容のみである。
・食人の事実を知ると、先祖の悪霊に魅入られ人肉を求めてしまう。
・極端に精神が弱ると悪霊は夢を見せ、食人の歴史を刻み込ませようとする。
・食人の連鎖を断ち切るには、地下の防空壕にある食糧庫で先祖の悪霊に打ち勝つ必要がある。
正気度喪失:0/1

2階

子供部屋

2階に入ってすぐの部屋が子供部屋である。以前、探索者が訪れた際には奥寺 瞬が自分の部屋ができたと探索者達に自慢していた様子が瞼の裏に浮かぶ。

室内に入ると、昔入ったときと一切変わりなく当時人気のあったおもちゃがおもちゃ箱の中に入っており、壁には祖父母と両親、そして奥寺 瞬の似顔絵が書かれた落書きが貼られていた。

また、室内には勉強机やベッド、棚が置かれていた。

《勉強机を調べる》
勉強机は、使われた形跡がなく表面は艶やかな木の質感がそのまま残っている。引き出しの中には奥寺 瞬が集めていたのだろう、既に乾ききったどんぐりがいくつか納められていた。

《ベッドを調べる》
ベッドの上には一切の皺がなく綺麗に整えられていた。汗などによる変色もなく、上に薄っすらと埃が積もっていることからあまりこの部屋が掃除されていないことが分かる。

《棚を調べる》
棚の中には、奥寺 瞬が好きだったと思われる消防車の本や新幹線の本が収められた。

妻の部屋

2階の奥に対となっている部屋がある。その片方が妻の部屋である。

部屋の中には骨組みだけのベッドや中途半端に置かれた棚などがあった。床には埃が積もっているため長い間、この部屋には誰も立ち入っていないことが分かるだろう。

《棚を調べる》
棚の中には何も入っていない。

忍の部屋

2階の奥に対となっている部屋がある。その片方が忍の部屋である。

部屋の中には多くの本が収められた本棚とパソコンが置かれた机、棚がある。

《本棚を調べる》
本棚には仕事に関連するような本がたくさん納められていた。しかし、どれも整然と並べられており、本の上部には埃が薄っすらと積もっていることからあまり読まれていないことが分かる。
〈図書館〉
探索者が本棚を調べると日記が一冊出てくる。それは最近書かれたものらしい。
★忍の日記
これは忍の日記である。内容を読むと鬱状態に陥っており、その治療のために毎日の日記をつける習慣をつけるよう医師に指示された旨のことが書かれている。
20XX年X月X日(数年前)
今日は気分転換に近所の公園を散歩した。広々とした空の下で久し振りに明るい気持ちで読書を楽しむことができた。暫くの間、本を読んでいたら公園の砂場に小さな男の子が遊んでいた。瞬…どうして死んでしまったんだ…。
20XX年X月X日(数か月前)
いつまでも陰鬱な気分でいても俺は前に進めないだろう。でも前に進もうと思うとどうしても瞬を失った瞬間が頭に浮かんでしまう。どうすれば俺は前に進めるのだろう。
20XX年X月X日(数日前)
最近変な夢を見る。やっとあの事故の夢を見ずに済むようになったのに。夢の中で俺は階段を降りている。あれはどこなんだろう、鬱陶しいほどの湿気と奥が見えない深淵に染まった闇…俺の今の心を示しているのか…?奥に進むと扉が現れる。いつもそこで目が覚める。そして目が覚めると妙に肉が食べたくなる。最近は近所の牛丼屋に通い詰めているせいで体重が増えてきている。そろそろ運動を始めないと医者に注意されてしまうな。

《机を調べる》
机の上にはノートパソコンが置かれている。開かれたままのノートパソコンのキーボードには薄っすらと埃が積もっており、長い間使われていないことが分かる。

《棚を調べる》
棚には、奥寺 忍の私物が入っていた。多いのは金貨や銀貨などの貴金属が多いことが分かる。これを見たとき、探索者は数年前に奥寺 忍が話していたことを思い出すだろう。
「これから先、何かあったときのために金貨と銀貨を貯めているんだ。これでもし俺が死んだとしても妻と息子がある程度は安心して暮らせるはずだ」
満足そうな表情を浮かべていた奥寺 忍の姿が瞼の裏に浮かぶ。

寝室

寝室は、2階の最も奥にある部屋である。

室内には大きなダブルベッドと着替え用の衣類が収められた棚が置かれていた。

《ダブルベッドを調べる》
ダブルベッドに皺が寄っており、使われた形跡があることが分かるだろう。枕は一人分しかない。

《棚を調べる》
棚の中は半分程度しか埋まっておらず、男物…つまり奥寺 忍の衣類だけが収められていた。

ベランダ

ベランダからは久東市の市街地にあるビル群が見える。風のそよぐ音や鳥の囀りなどの自然味溢れる爽やかな空気が探索者の周囲を包む。
手すりにはやや汚れが残っており、掃除の頻度が低いことが分かるだろう。また、床には何も入っていない鉢植えがいくつか置かれている。

屋外

奥寺邸の庭は広く、車庫や小さな庭園、土蔵などがある。

《車庫を調べる》
コンクリートで舗装された道に続く車庫は、車四台は止められそうな大きさをしていた。内側には車を清掃するための様々な道具が保管されており、雑多な印象を受ける。しかし、現在は奥寺 忍(と探索者の車)しか入っておらず、寂しい印象を受ける。

《庭園を調べる》
庭園には小さな池と植林された松の木が数本生えていた。小さな池は若干濁っているが、近づくと鯉が顔を出す。どうやら餌を求めて探索者に近づいてきたらしい。

《土蔵》
土蔵は、二階建ての一軒家ほどはあろうかというくらいの高さであり、表面は綺麗な白色の土壁で作られていた。入口には大きな観音開きの扉があり、南京錠によって施錠されている。

土蔵

1階

土蔵の中は薄暗く様々な道具類や棚が置かれていた。そのどれもに埃が積もっており、ところどころに蜘蛛の巣ができている。調べられそうなのは大きな棚と農機具らしき木造の道具などである。

《棚を調べる》
探索者が棚を調べると様々なものが見つかるだろう。それは琥珀の勾玉だったり、何らかの書物だったり様々である。
暫くの間、棚を調べていると土蔵の入口から猫が入ってくる。その猫は、奥寺 忍が飼っている黒猫であり、一直線に探索者が調べている棚の下へ行き、ガリガリと爪でひっかいている。
《棚の下を調べる》
棚の下を調べると小さな扉が地面についていることが分かる。それは完全に棚によって塞がれており、棚をよけなければ開けることはできないだろう。

《道具を調べる》
その道具は、昔使われていた馬を動力として動作する古い農機具であることが分かるだろう。現在、奥寺家は田畑を有しておらず遠い昔の遺物で、そのまま土蔵の中に収められているようだ。

隠し通路

探索者が棚を移動させるとそこには地下へと続く道の入口があった。大きな板によって蓋がされており、それを開くと地下へと続く真っ暗な階段が続いていた。

その階段の先は真っ暗であり、照明の類がなければ先に進むことはできないだろう。また、通路の中を覗くと、壁には燭台のようなものが取り付けられており、昔はそれに火を点けてこの道を使っていたことが分かる。

地下防空壕

地下1階

地下の洞窟は縦2m、横5m程度で比較的小さいものである。

この洞窟は恐らく人工的に作られたもののようで、一定間隔で壁に柱のようなものが取り付けられていた。探索者が周囲を照らすと洞窟の中には特に何もなく、一番奥に重厚な鉄の扉が取り付けられていた。
《目星》
探索者が周囲を綿密に調べると、地面に多くの染みがついていることが分かる。その染みは赤黒く乾ききっている。

地下2階

奥の扉を開けると、濃密埃臭さが探索者を襲う。

室内には、木でできた机や金属製の奇妙な道具、大きな樽のようなものが置かれていた。

《机を調べる》
机は、木造であり、かなり古いものなのかボロボロになっている。机の上には特に何も置かれていないが、表面には大きな傷や赤黒い染みが残っている。

《道具を調べる》
道具は壁に鎖で繋がれた腕輪のようなものだったり、刃こぼれした大きな包丁のようなものが大半である。
〈知識〉もしくは〈歴史〉
探索者は、ここにある道具類が拘束用の器具や拷問用の器具が多いことが分かる。

《樽を調べる》
樽の中を調べると様々な長さや太さの白い棒状のものが大量に入っていた。
〈知識〉もしくは〈科学(生物学)〉、〈医学〉
探索者は、この白い棒状のものが切断された人骨の一部であることが分かる。
正気度喪失:0/1D3

探索者が一通り、室内を調べると入口の扉が大きな音を立てて開く。そこには、奥寺 忍の姿があった。
「姿が見えないから探しに来たらこんな場所が土蔵にあって驚いたよ。そろそろご飯の用意ができているし、ここの探索は中断して一旦戻ろう。」
そう言って入口の傍に立って、探索者が出ていくのを待っている。

探索者が部屋から出ていくと、突然最後尾の探索者の頭に衝撃が走る。後ろを見ると、奥寺 忍が部屋に置かれていた金属製の器具を持って立っていた。

「ここなら…肉が…。」

奥寺 忍の瞳が既に光を失い、正気ではないことを示している。

【VS:奥寺 忍】
勝利条件:奥寺 忍を倒すもしくは正気に戻す
敗北条件:探索者全員の死亡もしくは気絶

奥寺 忍を正気に戻すためには、息子を失った後悔の念を払拭し、彼を前に進ませる必要がある。
具体的には、彼がこれから家庭を築くための手助けをする必要がある(求婚する、養子をとるための支援等)

奥寺 忍を正気に戻した場合
⇒END1

奥寺 忍を倒した場合
⇒END2

警察への通報等の処置をした場合
⇒END3

探索者が敗北した場合
⇒END4

END

END1

探索者が奥寺 忍を説得すると、奥寺 忍は頭を押さえて苦しみ始める。

「僕は…もう同じ過ちはしないんだ…大切な人を失いたくない…。」

奥寺 忍が苦しんでいると、周辺に黒いもやが立ち込め始める。それは、奥寺 忍から湧き出ており、暫くすると室内で霧散する。

奥寺 忍はその後、何か吹っ切れたようになり、以前の姿へと戻るだろう。

正気度回復:+1D4

END2

探索者が奥寺 忍を倒すと彼の周囲から黒いもやのようなものが立ち込め始める。

そのもやは徐々に薄くなって見えなくなってしまうだろう。

[キーパー向け情報]
キーパーはここで全ての探索者にPOWロールを振らせる。失敗した場合は、悪霊が憑依し、徐々に食人へと目覚めていくことになる。

正気度回復:1D2

END3

探索者が警察に通報すると、暫くして久東警察署の警察官が現れる。暴れる奥寺 忍を数人がかりで捕まえ、そのまま署まで連行してしまう。

探索者達はこの事態に関して事情聴取を受けることになるが、特に問題もなくすぐに解放されるだろう。暫くして、探索者達は奥寺 忍がどこか遠くの病院に入院したことを風の噂で聞くことになる。

END4

探索者が目を覚ますと、仄暗い洞窟の中に咀嚼音が響いていることが分かる。視線をその音の方へと移すと、奥寺 忍が仲間の探索者の内臓を貪り食べている光景が目に入る。

探索者の番ももうすぐだろう。それを察した瞬間、探索者の意識は闇の中へと落ちていく。

最後に

いかがでしたでしょうか?

今回は、H.P.ラヴクラフト原作の『壁の中の鼠』を現代日本に再現するという試みで制作したシナリオでした。

かなり広い範囲で改変しているため、だいぶ違っているところもあると思いますがご容赦いただけると幸いです。

最後に私の活動についてお話しさせていただきます。

私は以下のチャンネルでTRPG配信や歌ってみた動画の投稿などを行っています。

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まぐ卓 - BOOTH
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